八束『光や風にさえ』感想
自分と同じ場で新刊を出された八束さんの『光や風にさえ』、文フリ東京で手に入れて読み終わりました。
スペイン語圏の南米のような土地に移民してきた女性の一人称を中心にした物語。試し読みなどを拝読した限りでは、近代日本から南米に移民した女性の話なのかな、と思っていたら(なにしろ「そう」思わせる空気や密度があるので)、日本やスペインなど、実在の国名や文化は出てくるのですが、惑星間移民や義体化技術があるのに人種や性別に関する感覚は戦前並みという、SFというかファンタジーというか、という世界観。ただしジャンル小説的な焦点はあまりなく、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』やアンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』のように文学として読めます。
また同じ場で出た新刊であるオカワダアキナさんの『イサド住み』や
拙作『征服されざる千年』のように、ナラティブをめぐる小説でもあります。
「できない」ということを見つめた小説です。
主人公ナオミは自閉症スペクトラム。他人とのかかわりの深さに困難があり、結婚や家庭においてうまくいかない。ナオミを連れ出すマヤは足が不自由で、ほかにもからだに障害を持っているらしく、働くことができない。このふたりの道行きが本書の大部分を占めます。ナオミが介護していた姑のソネ子は認知症ですし、道々出会うのは、事故で大けがをして、認知能力を失った「少女」や義体化の進んだ娼婦などの、「できない」ことを抱えた女たち。
主人公の語りを読んでいても、この「できない」の正体がなんなのか、見えにくくなっています。彼女は自分が「ばか」なために叶う望みのない、他人と深い「絆」を結びたいという感情を「しがみ」生きていますが、読み手としては彼女はまったくばかには見えないし、ほかのひととの受け答えにもあまり不自然さはありません。しかしそれは語り手が彼女自身だから、彼女が理解し把握した世界を語ったものだからです。
冒頭とラストで小説をくるんでいるパートでも、病で「できない」に取り囲まれた女性が出てきて、さらに「断章」では、ナオミたちに構造としてはほぼ一緒の環境にいた女性の語りが出てきます。それらが、互いが互いを語り、互いを夢みているように反響しあっています。
泥沼を進むような彼女たちの苦しみの人生のなかで、「できない」ことの正体は明かされず、楽しみはささやかで、でも、女たちの生は積み重なり続ける。美しさや楽しさというよりは、真実をまじまじと見つめるような、情動というよりも理知的な栄養のある小説です。
同時期に読んでいた(まだ読み終わっていない)『なしのたわむれ』という往復書簡集(欧州在住の俳人と古楽奏者の)にも日系ブラジル移民の詠んだ俳句が出てきて、それは「日本語」という、そのものが風土であるものを使って異国を表現することについての文章だったのですが、この物語も、SFファンタジーや歴史物的な言語を用いながら、「できない」に肉薄していく力を持っています。
Tide(潮汐)というアプリとポモドーロテクニックはじめました
ちわっす、鹿紙路です。こちらではおひさしぶりです。
小説は書いてて、いま18万字くらいです。暑いうちには第一稿を脱稿したいお年頃です。
書いている小説については、
ここの「ねごとだより」っていうPDFの1・2で話してるので、よろしければ読んでみてくださいな。
最近、といってもだいぶ前からちびちび読んでたんですが、最近大部分一気読みした本があり、これです。
ビジネス書とか自己啓発の部類かと思うのですが、基本大学生向けの勉強法の本で、
・集中の仕方
・効率的な学び方、定着の仕方
などが書かれた本です。勉強法というと意識の高さとか、自律性の向上とかをイメージされがちなんですけど、この本のいいところは「人間の処理能力にも自律性にも限界がある」ということをきちんと認識して、だったらどう自分をその気にさせるか、という視点で書かれているところです。こういう本って、実際に効果があるかより、自分をやる気にさせるかがだいじだったりし、わたしは結構やる気が出てきたのでよかったです。
その本の最初のほうに出てくるのがポモドーロテクニックというやつで、「集中」→「休憩」のサイクルを時間を区切って行うことで、勉強や作業の効率をアップさせる手法です。25分集中で5分休憩がメジャーみたいですけど、わたしはその倍の50分集中→10分休憩でやっています。そこらへんの時間設定は個人の自由らしい。
これをやる補助アプリというのがいろいろ公開されていて、わたしも調べてみたのですが、Tide
というアプリがよさげだな、と思ったので、自分のスマホとタブレットにインストールしてみました。
Tideのよいところ:
・見た目が落ち着いてスッキリしていておしゃれ
・画像や音声コンテンツがたくさんあり、画質・音質もよく見飽き・聞き飽きない(月120円課金すると音声コンテンツをたくさん利用できます)
・「集中」とは関係ないけど寝起きが気持ちよくなる
という感じで、「集中」以外に睡眠補助や瞑想の機能もあり、わたしは目覚ましアラームと睡眠時間の記録がわりにも使っています。(ゆっくり音量が上がっていくタイプのアラームなので、寝起きが気持ち良い)
アプリを使うと記録が残り、グラフや表として確認することができるので、「今週はがんばった!」とか達成感を持つことができます。
まだ使い始めて50日くらいですが、睡眠と「集中」という、自分の生活のだいじな部分を管理できる、という自己肯定感があるので、継続していきたいな、と思っています。
集中の機能ですが、ポモドーロテクニックを使うと、
・時間の終わりが見える(あと~分がんばればいい)→そのときそのときの集中につながる
・時間が見えるすきま時間(電車移動など)に設定し、少しずつでも集中する時間を積み上げられる
・家でも集中できる(使っているコワーキングスペースが値上がりしたんでこれはありがたいし、休憩時間にからだを動かしたりお風呂に入ったりできる)
・集中以外の時間を確保できる(ポモドーロテクニックだと、一日8ポモドーロ:合計3時間20分くらいの集中が目安なので、拘束時間が減らせる)→原稿以外のことができる
というメリットがあります。
注意点としては、いけるいける~と思って4時間や5時間集中すると、そのあとめっっっちゃ疲れるということです。
それと、先週やってみて痛感したのですが、平日も1日1時間半とか集中・土日も8ポモドーロ相当やると、翌週めちゃくちゃ疲れるということです……。原稿は進んだんだけど……。休日も8ポモドーロに抑え、かつ土日のどっちかは集中しないで過ごす、というのがわたしの場合の最適解かもしれません。
そんなわけで、お盆休みもTideと一緒に過ごすことになりそうです。進捗してやる~~~~!!
最近の集中環境
— 鹿紙 路@トランス差別を拒否します (@michishikagami) 2022年7月19日
・部屋暗くしてデスクライトと間接照明
・スマホはアプリでロック、パソコンはWebアプリでTwitter見れないようにする
・ディスプレイに布
・Twitterを有害サイト設定にした(笑)ウィルスソフト入りタブレットでTideのポモドーロタイマー表示、環境音をスピーカーで出す
・読書台にポメラ pic.twitter.com/PFUdtvlMR0
#創作2021_22 2021年の振り返りと2022年の展望
あけましておめでとう! 鹿紙路です。しかがみ みち と読みます。一次創作小説を書いているひとです。
前回はこんなだったよう。
箇条書きで言うと、2021年の目標は、
- 秋の文フリ東京で20万字超えの新刊を発刊する
- 年間総字数24万字
- 作業会やコワーキングスペース通いで執筆を継続する
- 無理のない範囲で体調を改善し、体調不良で仕事を休まないようにする
- 既刊を売りたい欲求とは距離を置く
- 生活リズムを一定にし、ツイ廃にならずに本を読む
だそうで!
六個もあるけどできたのは「作業会やコワーキングスペース通いで執筆を継続する」「
無理のない範囲で体調を改善し、体調不良で仕事を休まないようにする」くらいかな。
実績
おもにやってたこと:『征服されざる千年』執筆
参加イベント:文フリ東京(5月委託、11月直接)
通販込み頒布冊数:43
新刊:なし!!
執筆字数:90,000(日記、エッセイ含む)
なんかほかのことで忙しかったとか私生活でなんかあったとかは特にないのだが、ちょっとしたストレスに弱いので途中ぶっ倒れていたり小説書きにまつわるすべてが嫌になったりして休み休みやっており、字数は去年(207,800)の半分以下になりました。長い作品ひとつだけずっとやっていた、というのもあり、目に見えるとか数字になる部分は縮小していました。
あ、でも2020年の読んだ本は75冊だったのですが、今年は124冊だったようです!(拾い読みとかしまくるんで、一冊まるごとじゃない本もたくさんあるのですが)
結論としては、サボっていたわけでも非効率的にやっていたわけでもないが、思うようにはいかなかったな、という後ろ向きな感じです。原因はだいたい体調のせいで、それはもう自分の心身に期待しないでやっていくしかないですね。期待しない、というのもそうですが、言い方を変えるとハードルを低く設定して、一個一個クリアして、細かい達成感を積み重ねていく、という感じでしょうか。
よく思うんですけど、わたしは他人からのリアクションを待つのがひじょーーーーに苦手で、待ってられなくて悪あがきして事態を悪化させることがままあり、「自分の体調」という他者の反応も同じなんじゃないかという気がしています。一昨年、去年なかばくらいまではスケジュールを立てて粛々と進捗していく、というやり方でしたが、そこに戻り、過剰に自分を追い込む(=自分にできなそうなことまで達成できるよう期待する)こととは距離を置いてやっていこうかなと思います。
執筆字数を進捗ノートにのっけてガントチャートで管理する、という方法をとっていたのですが、今年はそれはやめようかな。予定は漠然とさせて、実績を積み重ねる、という形にしようかと。予定を細かくしてしまうと、それに集中してしまい、できないとき(理想と現実のギャップがあるとき)のストレスがのしかかってくるので。
手帳でハビットトラッカーをつけて、ウォーキングや家事の実績を記録しているのですが、執筆でもそれをやろうかな。
しかし今年には『征服されざる千年』を出したいですね。まだ75000字ですが(20万字くらいの予定)。
最後に宣伝ですが、本屋さんで菌類百合SF『根を編むひとびと』委託頒布をして頂いております。
一人出版社やZINEなど、ほかではあまり扱っていない、けれどご店主の一本通った選書を感じ取れるお店です。(エレベーターのない)レトロビルの四階にあります。ぜひお越し下さい。
同人小説書きに爆裂おすすめするガジェット・スポット・ハビット7選&コストとパフォーマンスとモチベーションについて
2021年頭の目標の第一であった今年秋に新刊を出すことについて限りなく雲行きの怪しい鹿紙路です!!!!!! こんにちは!!!!!! やっていこう!!!!!!!!
はいいんですけど、ここ最近これが生活を改善した……!! と思うことがまとまってきたのでタイトル通りのことをご紹介しますね。
同人小説書き向け、というのは自分がそうだからなんで、ほかにも書き物・描き物や創作などしている方には参考になるかもしれません。
で、最初から言っておくと「コスト」・「パフォーマンス」・「モチベーション」の切っても切れない関係についても話しておきたいので、目標とかスケジュールとか立てて実行していきたいがうまくいかん……という方にも参考になるかもしれません。
かつ、ここが大事ですが、体調とか健康とか動機とかって多分に人それぞれなんで、ここに書いてあることに効果がないなどは全然あると思います。期待するな! しかし視野は広く!
前提条件:
鹿紙路は同人小説(一次)をわりとコンスタントに書いている小説書きです(年1~2冊長編小説を書き上げる感じのペース)。書くためにそこそこの量の読書をするタイプ。会社員です。八年前くらいから病気を患っており、いまはだいぶ良いですが、疲労とストレスに弱く、無理すると寝込むか死にたくなるので無理はしないようにして生きています。
目標:持続可能な同人活動 楽しいこと:温泉 好きな食べ物:ゆでたまご
個人的課題:
・疲れやすい、月一のお勤めなどで倦怠感と猛烈な眠気に襲われる
・デスクワークと小説書きで座っていることが多く、肩こりになりやすい
・ひとつの場所にずっといると小説が書けない
・が、週一か隔週くらいで家に一日いる日を設けないとモロモロ滞り、精神が損なわれる
ちょっとでもなんか引っかかる項目はありましたでしょうか。↑のような課題解決にオススメ! なのが以下です。
1)ルームランナー
ルームランナー買おう。1万円くらいだし。
ルームランナーのここがいい:
・体を動かすことによって血行がよくなる→肩こりが改善する
これまじらしいですよ。いや、職場で「肩こりがひどくって~」と言ったら「ウォーキングなんかでいいから体を動かすと、体の一部だけ動いていてもそれがポンプの役割を果たし、血行がよくなる」とマジ顔で言われたので「そっか~」と素直に思ってやってみたんですが、歩いた日のほうが肩こりが楽なんですよ。いままでず~っと湯船に浸かる・めぐりズムを貼る・着圧靴下を履くなどで改善しようとしていたのですが、一日5~15分程度のウォーキングを1~2回程度やっていたら改善しました。
朝一にやると、眠気が取れて頭がハッキリします。血行がよくなると脳の血の巡りもよくなるみたいです。例の倦怠感と眠気もだいぶましになりました。
・歩いている間本が読める
ルームランナー買った動機がこれなんですが、小説書くのに資料を大量に読まねばならず、だがじっと読書していると眠くなったりひっくり返ったりTwitterを見たりしがち……だったので、二宮金次郎方式で歩きながら読んだらいいのでは? というのが発端でした。
やってみたら、普通に座って読むよりなぜか集中できるんですよ。あと動画を見たりするのもよい。スマホホルダーなしのタイプでも自転車用のスマホホルダーを取り付けると、スマホで動画とかゲームとかKindleとか見れます。足を動かしていることに脳の一部を使っているせいか雑念が湧きにくく、こむつかしい学術書とかでもわりかし読めるんですよ。
・自走式なのでちょっと歩いただけで汗だくに
ルームランナーは大きく分けて自走式と電動があるんですが、自分の足で足許の傾斜のついたベルトを動かす(すり足みたいな歩き方になります)方式の自走式だと、かなり負荷がかかるようで、歩いているだけ(と本人は思っている)で10~15分ほどで汗だくになります。
・歩いているだけなので騒音にならない、外の天候は関係なし
集合住宅の方でも安心
ルームランナーのここがダメ:
特に自走式だと膝に負担がかかるみたいで、膝に不安がある方はやめた方がよいでしょう。エアロバイクのほうがオススメです。わたしもエアロバイクいいなあと思ったのですが、展開したときの存在感が……大きくて……やめました……
なぜ歩く気になり・続けられているのか
なんですけど、きっかけとしては↑に書いた資料読みつつ歩きたい~だったのですが、体調面の改善という大きなニンジンが見えるのが大きいですね。コストとパフォーマンスとモチベーションの話になりますが、
・乗り越えやすいコスト(折りたたみを開いて基本数分歩くだけ)
・得られるパフォーマンスのでかさ(読書が進む・体調が改善する)
・上記ふたつにより、やる気になる
ということで、無意識に「運動? めんどくせえ。やってもなんも変わらんし」と思っていると難しいかなあと思います。わたしもちょっと前までそうだった。
乗り越えやすいコスト、というのには「具体性」が必要で、よく言われる筋トレとかヨガとか聞いても、わたし個人としては何をしたらいいのかわからず知識も関心もなく、という感じだったので、「歩くだけ」という具体性がポイントだと思います。知識や関心があれば、ほかのスポーツなどでも全然いいと思うのですが、一人で自宅で始められる手軽さもあって私の場合はウォーキングでした。
目標設定もその実現方法も具体的に、というのが大原則ですね。
2)ストレッチ
ウォーキングだけだと週のなかばぐらいに「肩が……カチッカチだ……」ってなるので、ストレッチと併用するようにしました。
「肩こり ストレッチ」でぐぐるといろいろ出てきますよ~。わたしはベッドの上でやるやつ単純なやつを覚えて、気になる日の寝る前などにやっています。こりゃあダメだ……という日はYouTubeの理学療法士の方のストレッチ動画を見てみっちりやります。
3)温泉
あとは温泉! 行動範囲に温泉銭湯があるので、銭湯価格で入れるのでたまに行きます。じっくり温まってから出ると全身が解放される……許しを(何から???)得られますね……
4)着圧ソックス
低気圧のときなど、日中の倦怠感や眠気がどうにもならず、仕事中でウォーキングもできず……という時はレッグウォーマータイプの着圧ソックスをささっと履きます。これでみるみるうちに頭がスッキリする……ときもある……
ドラッグストアなどで売ってます。これもポンプの原理で、着圧かけているところに血を巡らせようとポンプが働いて、体のほかの部分の血行がよくなるんだとか。詳しくは知らんけど。
5)コワーキングスペース
家で集中できない……カフェだと長居できない……図書館はコロナで長時間は無理……な状況下ですが、コワーキングスペースなら長居できるし電源もWifiもあるしフリードリンクも大体あるよ! ティーバッグ持って行ってお湯だけもらうのもいいですね。
わたしは月2千円で二日使えるプランで契約しています。これなら土日ずっといなきゃいけないわけでもなく、気軽に続けられるので……。
6)ポメラ
で、いろいろなところに行って書くのには軽いガジェットがいいんですけど、やっぱり文章書くのはポメラですね……文章を書く以外なにもできないのがいいんですよ。スマホも持って行けば一息つくときに見てしまうんですけど、パソコンやタブレットのようにシームレスにTwitterに行ってしまうことがないので、集中しやすいです。
ちなみにわたしが持っているのはDM100ですが、かれこれ八年ほど壊れません。
そろそろ壊れてくれれば(原稿は無事で)DM200に乗り換えるんだが……
7)キーホルダー式の時計
最後のやつが一番地味。ですが、集中するのにとてもよいです。どこでも時間が確認できて、コワーキングスペースの机に置いて何時間で何時書けたか確認しつつ書いています。時間を確認するのにスマホを見てしまうとついTwitterを見てしまうからな。
以上です!!
#創作2020_21 2020年振り返り
大晦日となりました。今年は帰省しないので、年末年始感も薄く、淡々とやることをやっている感じなのですが、これはやらないとね。ということで #創作2020_21 の回顧編です。
同人小説書き・鹿紙路にとってどんな2020年だったか?
とりあえず2018年から継続している数字まとめの表を作りました。
※頒布冊数・執筆字数等のセンシティブ情報が含まれるので閲覧注意です。
一昨年・昨年から比べてみると今年の特異性がわかりますね。
- イベント参加回数
直接参加が2018・19年は7回だったのが、2020年は2回のみ。
委託参加は2019年が6回、2020年は5回(書店での販売含む。今年行われたオンラインイベントは除く)。
もともと2020年前半はイベントの直接参加予定が少なかったんですが(静岡文学マルシェは予定していた)、ご存じの通り春~初夏の同人イベントは軒並み中止となり、直接参加はゼロとなりました。
- 頒布冊数
昨日まとめた時点では去年・一昨年の三分の一くらいかと思ってたんですが、今朝思い出して委託などを付け加えてこの数字となりました。『翼ある日輪の帝国』がよく売れた(自分比)去年と比べると、実に約60%減です。
- 執筆字数
去年は10万字超えの長編を二作品新刊として発行したのですが(『日輪』については一昨年から書いていますのでその総字数よりは去年の執筆字数は少ないです)、今年も126,000字と60,000字の二作品を新刊として発行し、加えてこちらの記事のようなブログやエッセイ、読書感想文も書いたので、意外と増えてました。前年比約3万字増です。
年初計画との予実合わせ
- イベント参加回数
目標:減らす。直接参加4つ
実績:減った。直接参加2つ
ということで達成ですが、とくに嬉しくない達成ですね(笑)。もうすこし地方イベントに出たかったしおいしいものや温泉を摂取したかった……
- 頒布冊数
目標:特になし。現状維持
実績:現状は維持できなかった
その原因としては、去年の新刊で今年売っていきたかった『歌声』が、委託向きの作品ではなかった(価格が高い。題材が重い。厚い)のと、今年の新刊の直接頒布機会である文フリ東京でも頒布数が伸びなかったことがあると思います。この情勢下で、一般参加の方の数はかなり少なかったのでは。惨状というほどではなかったのですが、やはり行くのを控えた方が多かったと思います。
- 執筆字数
目標:増やす。24万字
実績:増えた。21万字
目標には届きませんでしたが、増えるは増えました。新刊の総字数が予定より少なかった(いつも少なく終わる)ので、実績の数字はまあ仕方ないかな、という感じです。あとは四半期ごとの振り返り記事が地味に字数を稼ぎました。
- その他こまごました生活習慣
いろいろ実践しましたが、
・フルタイムの仕事をする
→いちおう首にならず続いています!
・寝込まない
→月一ぐらいで寝込んでいたのですが、年末に至って薬を追加したらだいぶましになりました。
・就寝・起床時間を常時同じにする(土日は疲れているので起床はゆっくりになるのはOK。ただし寝る時間は一定)
→寝込まなくなったので気を抜きがち。そのせいで寝坊したりする。
・ツイッターを15分以上見ない
→見がち。
・作業会主催、一人コワーキングスペース通い
→自分ふくめ二人の作業会は初夏から月一くらいでやっています。コワーキングスペースは最安のプランを契約し、月2回くらい通う形で、新刊が脱稿するまではやっていました(いまは一時退会中。再開もできるそうで)。
これはコロナで図書館の持ち込みPCスペースが閉鎖されたり、飲食店でも長居しづらくなったためにやり始めたのですが、情勢上、来年もやらざるをえないだろうな~という感じです。お金かかるな。母校の図書館は外部者利用がずーっと不可なので、資料も借りられないのでさらにお金がかかりますね……。
結論・2021年の目標
新刊二冊も出せばすべてが許される圧倒的達成感が得られる
という感じではあるんですけど(笑)、ドヤドヤ顔でばかりはいられず、幸運にも職にもあぶれなかったし、直接参加イベントがなくても執筆できる志向の性格であったことが功を奏した、ということですね。
去年から同じことを言っていますが、残念ながら人生はあまりに短く、書きたいものはあまりに多く、読みたい本は死ぬほど多い、ということで、ボヤボヤもしていられません。
その上新刊ができてもあんまり売りたい欲が湧いてこないんですよね、最近。宣伝とか根回しとか正直めんどくさい。それより本読んだり小説書いたりしたい。いや、刷っちゃったり製本しちゃったりしたものは売れて欲しいんですけど「売りたい」より「売れて欲しい」んで……。特に委託やオンラインのイベントだと宣伝が命という感じなんですけど、そこらへん、情勢と自分の欲求があまりかみあっていない。う~ん。ということで、来年は再開された直接参加イベントに、ちいさいものでも三、四ヶ月に一回くらいは参加したいかな、という気分です。ただ、関東圏以外のイベントは情勢上参加できるか不透明だし、関東圏のちいさいイベントというとTAMAコミですが、一次創作オールジャンルなので文章系は厳しい感じなので、どうだろ……なにもかもわからない……という思いですね。
ただ、来年は厚くて高い新刊を秋の文フリ東京で出す、という欲求は確定しており、情勢をみつつその他のことは決めて、粛々と執筆に励みたいと思います。
来年の新刊は東アフリカが舞台、三つの時代を相互共鳴させる歴史物というか歴史SFというか、というものになりそうです。総字数が20万字を超えるのが目標。
箇条書きで言うと、2021年の目標は、
- 秋の文フリ東京で20万字超えの新刊を発刊する
- 年間総字数24万字
- 作業会やコワーキングスペース通いで執筆を継続する
- 無理のない範囲で体調を改善し、体調不良で仕事を休まないようにする
- 既刊を売りたい欲求とは距離を置く
- 生活リズムを一定にし、ツイ廃にならずに本を読む
くらいですね。多くなってしまいましたが、一番最初と体調面が一番大事です。
来年もよろしくお願い致します。
風野湊『すべての樹木は光』感想
こちらでは初めてのこころみですが、同人誌の感想を載せようと思います。
風野湊さんの『すべての樹木は光』
です。先日の31回文フリ東京で入手しました。
というのも、Twitterで書くには長くなりそうで、カクヨムでわたしの文章としてランキングや評価の対象になるのも違うかな、と思ったので、こちらで書きます。
文フリの前の宣伝をTwitterで見かけたので興味を持ったのですが、入手して付属のペーパーにこちらの作品の参考文献が載っており、それが拙作『根を編むひとびと』と二冊重複していたのもふしぎなご縁です。関心や志向が自分と重なる部分があるんじゃないか、と期待しつつご本を開きました。
読み始めて、序章の「つかみ」で引き込まれ、主人公の視点に焦点が合ってくると同時に、文体が非常に好みでした。「情景」で描写される風景は、使われることばは淡々としていて、押しつけがましくないのですが、その風景の「特有の美しさ」をさらさらと表現していて、読んでいてここちがよいのです。この文章のなかで滞在していたい……という気持ちになります。
ある「家族」の物語です。けれどかれらは血のつながりがない組み合わせもあり、主人公の母とその父(ということになっているひと)はなにか良からぬことが起こり、しばらく断絶していたらしいことが示唆されます。その上、主人公の祖父には「兄」ということになっている「青年」がいて……と、ネタバレを避けるとカギ括弧で括らざるをえないことがらが頻出します。加えて、人間が樹木になる可能性がある世界、祖父の若い頃には戦争があった世界、ということになります。冒頭のつかみと、「樹木になる」可能性が、物語全体をひりひりとしたものにしています。頭の隅にはずっと存在する可能性にじりじりしながら、主人公ユハのまなざしに沿って、読者は物語に滞在します。
いままで触れた樹木変身譚というと、ギリシア神話などがぼんやり思い浮かぶのですが、そこだと現世の課題を解決するために変身する、という形です。物語なのだから、物語の必要から変身をするわけです。ただ、この小説だと、どうして人間が樹木に変わるのか、明確な説明はありません。けれども、現世に絶望した人間が樹木に変わろうとする意思を持つ、ということはわかります。その絶望が、この作品のなかで常にさらさらと頭上に降り続けるのです。
とりわけ裕福なわけでも貧しいわけでもない、つましい暮らしをしている「家族」の、問題ぶくみの日常を描きながら、ユハのまなざしに沿って、悲しみやさみしさ、笑いや美しさを感じ取ることができます。ただ、悪意もなくやさしさを持ち暮らしていて、しかし魔法を失ってしまう。ユハのまなざしに沿いながら、一方で引いた視線の地の文も読んで、読者はそれを納得するのです。
樹木は神経も脳もなく、人間の持っているような形の「感情」や「知性」はありません。けれど、――これは拙作『根を編むひとびと』の参考文献で読んだのですが――樹木も触れられれば感じ取り、光や雨を認識し、根に住んでいる菌類と共同で栄養を得る、別の意味での知性を持っているそうです。そういったことはこの作品でも示唆されていて、変身したときの知性についても言及があります。わたしは疑問に思います――樹木に変身するとは、なんのメタファーなのだろうか? 絶望からの逃避? 理不尽な不幸? どうもそうではなさそうです。作品のなかのフラットな語り口と、淡々として、でも美しさを差し出す情景描写から、「木になる」ことも、ある別の意味での生であると。世界を構成するひとつの命であることは、人間として生きることとは形はちがうけれど、同じく生であると。そういうふうに受け取りました。
ストーリーの引きはありつつ、小説全体でひとつの世界を提示し、そこに読者を滞在させる。そんな作品だと思います。面白かったです。
2020年第三四半期振り返り
こんにちは。うっすらとした不安が常にあるという状況に慣れつつある今日このごろですね。
今年ももうあと三ヶ月、4分の3は過ぎてしまったということで、恒例の振り返り記事です。
年始↓
1回目↓
2回目↓
ということで3回目の記事です。
やったこと
- 執筆関係
8月 『根を編むひとびと』初稿脱稿 126,000字
9月 『玻璃の草原』取材旅行(半日×2回)
9月 『玻璃の草原』初稿脱稿 55,000字
以降推敲、下読み依頼、修正
*所感
順調に予定をこなし、順調に予定より字数は少なく初稿ができました(毎度字数は予定より短くなる)
下読み依頼しないとか言いつつしてますが、これには理由が~! いちおう、初稿までは読んでもらってないんですよ。そこから自分で推敲したものを読んでもらっています。自分で直せるものは直して、自分の考えだけを優先して書いて、それでも「これは面白いのか?」と迷子になったのでお願いしました。
- 参加イベント
8-9月 富山 zine zine zine 2020 (書店で開催されたzine委託イベント)
8/30 レキソウオンライン (pictSQUAREという、バーチャル同人誌即売会ができるサービスでの歴史創作オンリーイベント)
9/11-13 ブックハンターセンダイ ちょろっとだけ参加(ほとんど参加できませんでしたが、本の宣伝だけはしてくださった……神か……?)
*所感
結論だけ言うと、この三つのイベントでは、期待していたほどの成果は得られなかったんですけど(いずれももともとお知り合いだった方から買っていただくということはあり、大変感謝しています)、それって自分が売りたいと思っていた既刊『歌声』が致命的に委託やオンラインイベントに向いてなかったからでは……という思いです。なにせ一見さんには商業の上製本並みに「高い」「厚い」「内容が重い」という本で、どこの馬の骨ともわからん人間のものは買いたくないわな……と気付きました。
やはり自分にとってリアル同人誌即売会は必要で、そこでしか売れない自分の本がある、という気づきがありました。今年特有の問題ですが。
- 生活改善
ふわっとしたプライベートの話ですが。
・給付金でデスクトップPC用の椅子、ベッドのマットレスを買って入替えた
・衣服やリネン類、スキンケア用品(というかボディクリーム)を買い足したり買い換えたりした。不要品はゴミ袋8個ぶんくらい捨てた
・主治医の肩をつかんで揺さぶり(比喩表現)、常用薬を変更した
家にいる時間が増えたこともあり、暮らしのなかの小さ~いストレスが耐えがたくなり(加齢のせいか?)、いろんな生活用品を買い換えました。経済的安定万歳。お金はなくなりましたが、目に優しい色使いとか気持ちのよい肌触りとか皮膚感覚とか匂いとか、自分の好みのものを自分の身の回りに置いておくことって、すごく自分を大事にしている感覚があり、自己肯定感が上がるし快適だしとてもいいことだと思います。
自分の感覚をもっと大事にしたい。いままでもそうしてはきたんですが、ほんとうにもうにっちもさっちも大事にしないとやっていけない感じですね。もちろん他人と妥協したりする場面もあるんですが、そうじゃない部分(自分にしか関係ない部分)は冷静に分析して改善していきたい。
やってよかったこと
9月に2作品初稿が上がり、その次の週末に、「魂にひび割れができている気がする~~~」「脳みそがカサカサのスポンジだ~~~~」という感覚を慰めるべく地元の温泉と日本民藝館(アイヌの手仕事展をやっていた)に行きました。見事に魂がくっついた。自分を満足させること、上の生活改善もそうですが、そういうことにこだわったほうがよい。効率でいえば身も蓋もないですがこだわったほうがいいんですよ。
やらなかったほうがよかったこと
- 自分に経済的・健康的な被害があること
経済的なのは、買い物ですが。服、買いすぎた(笑) まあ、全部シーズン中に着るつもりなので、無駄ではないんですけど、通販だと歯止めがきかなくなるな……。
健康上なのは、平日に1時間寝るのが遅くなったこと。これ、すぐに実害が出ます。寝坊とか。やらないほうがいい。平日はちゃんと休んで、土日に原稿の修正したほうがいいですね。土日だらだらしたいときもあるけど、それは時間を決めてやる。
やりたいこと
今後やりたいことは、
- 本を刊行する
二冊新刊が控えていますが、11月の文フリ東京では二冊とも出る予定です。そのために推敲と装丁まわりのことと製本がんばるぞい。
- 宣伝する・売る
イベントや通販開始に向けてやっていきます。そのためには装丁を確定するんだ。いいな。
- 休む
すこしでも負荷がかかったら積極的に自分を休ませる。寝る・本を読む・美術館に行く・温泉に行くなど。
ということで、残りわずかな2020年を楽しんでいきたいと思います。